印象深い課題

クライミングを始めて早6年、これまで登ってきた課題は数え切れないほどあり覚えていないものがほとんど。それでも印象深い課題というものはいつになっても鮮明に覚えている。見た目がカッコいい課題、ムーブが面白い課題、全く歯が立たなかった課題、色々あるが自分にとっての印象深い課題は「打ち込みたくなる課題」だった。ここで言う打ち込みたくなる課題とは限界に挑む過程があるということ。クライマーの限界に挑む姿は勇ましい。自分もそんなクライマーになりたい、この思いは昔から変わらない。

限界への挑戦

グッぼるサーキット2020秋。ゲストセッターはボルダリング日本代表の井上祐二さん。今年のジャパンカップで見事3位に入賞しているトップクライマーだ。現役のコンペティターのサーキットセット、いつも以上に気合いが入った。
 

井上さんの課題は予想以上にハードでどの課題もあらゆる要素が求められる。そんな中でもとても惹かれるラインがあった。ダイナミックな動き出し、繊細なホールディング、純粋な保持とフィジカル、セットの段階から気になっていた課題「42番」、グレードは推定二段、間違いなく自分にとって限界の課題だった。
 

トライ開始3日目、ようやく全てのムーブが解決。4日目より繋げトライを開始。成功率が低いパートが3箇所、2手目の立ち込みとプッシュを同時に行うデッドムーブ、5手目のルーフを抜ける一手、そしてゴール取り。序盤の2手目取りは距離感が難しい。保持出来ても足が切れるとかなり消耗してしまう。ゴール取りはシンプルにホールドがワルい。最大の核心である5手目取りはホールドが外径していて効かせるのが難しく、加えて左手の保持もワルく狙いづらい。最初から最後まで気が抜けないこの課題、ムーブが出来たここからが本当の戦いだった。

8日間の激闘

5日目からはひたすら打ち込み続けた。核心の一手はバラしだと止まるのに繋げると保持が定まらない。そのパートで振り落とされるのを繰り返し3日が過ぎた。そして迎えた8日目、気温も低く体のコンディションもいい。今日は登れる気がする。心の中で呟いた。
 

この日3トライ目、その瞬間はついに訪れた。核心の一手が今までにないほど安定して止まる。呼吸を整えムーブを起こす。ゴールまであと3手、ただただ必死だった。最後の難所であるゴールを気合いで溢れ出た声と共に止める。両足を掻き込むようにして下半身を安定させ両手を添える。終わった。達成感と安堵感、入り混ざった思いが込み上がり目頭が熱くなる。そして8日間の激闘を終えた僕はしばらく余韻に浸っていた。

出来ないことが出来る様になる

一つの課題で8日間、トライ数はおよそ80、ここまで打ち込んだのは初めてだった。クライミングの醍醐味とは何か、それは「出来ないことが出来る様になる」この課題はまさにそれを体感させてくれた。思考を繰り返し挑み続ける、それはジムでも岩でも同じこと。今回のこの課題を通じて学んだ事を次は岩で発揮する時。今シーズン最大の目標である“夜陰”も完登が見えて来た。この時の気持ちを忘れずに限界に挑み続ける。